てぱとら委員会

巻頭言

 この本は、女性アイドル集団・ハロー!プロジェクト(通称・ハロプロ)の楽曲にまつわるエッセイ集であり、シンプルに言えば、「ハロプロ曲と私たちの人生」をテーマにした同人誌です。

 

 

 1997年のモーニング娘。結成以来、23年もの年月をかけて、のべ150名を超えるメンバーたちが、2000曲近くの人生を歌い継いでいる。それがハロプロです。

 ハロプロの楽曲は、その多くが日常の些細で真剣な悩みや恋、ただそこにある生活の一幕を歌ったもので、所属メンバーたちはそれらをステージ上で演じるように歌い踊って表現しています。そして、日々生きるなかで心に浮かぶけれどあえて言わないような、もしくはうまく言葉に出来ないようなことを、音楽の形で語ってくれる。その姿がファンを惹きつけてやまないのです。

 そのせいか、ハロプロ楽曲のメッセージは、我々ファンの生き様にも直接干渉してくるような気がしてなりません。ハロヲタがそれぞれ全く違う人生を歩む中、ここぞという局面で、曲中の物語や、歌詞の一節に心を寄せる日があったのではないか。

 この曲の姿勢にシビれて自分のテーマソングにしている、この曲の主人公のようになりたいけどなれない、失恋したとき/恋をしたときはあの曲ばかり聞いてた、何気ない一言に傷ついた夜、あのパフォーマンスに心震えた……そんなエピソードが尽きないハロプロが好きです。

 ハロプロ曲の魅力の肝心なところは、いろんな立場を生きる主人公たちの生活の延長として人類愛を歌う、ミクロな人生とマクロな視点の反復横跳び、まるでメビウスの輪のようなつくりにあるのだろうと思います。

 近年、著名人らの口から総論的にハロプロ楽曲の特色が紹介される機会は増えてきました。だけど、なんとなく物足りない。ハロー!の音楽を語るためには、その構造上、やっぱり究極に個人的で主観的なことばが欠かせないと思います。

 それなら、わたしたち一人ひとりの人生の一シーンにハロプロ楽曲がクリーンヒットした瞬間を、エッセイとして綴ってみよう。ハロプロに倣って、いろんな立場を生きる人々が「いちいち言わないだけ」で胸に秘めているお話を集めて束にしよう。そうすることで、小さな物語の積み重ねが大きなパワーを生み出すハロプロというものをおのずと浮かび上がらせることができるのではないか。そんな発想からこの本を企画しました。

 

 もう一つ、コンセプトがあります。寄稿者を含め、この同人誌の発行に関わった人は、全員が女性です。ハロプロ曲の主人公たちのほとんどが女として生きていて(少なくとも、そのように読み取れる歌詞が大半で)、それを歌うメンバー達も女性であることは、音楽表現上の大きなアイデンティティだと言えます。

それでも、突き詰めればあらゆる人類に通じる寂しさや幸福が主題であるからこそ、ハロプロの楽曲はファンの属性を問わず広く長く愛されている。このことを踏まえると、多種多様な「女」の生き様を歌い続けるハロプロ曲と、それぞれの道を歩む「女」の人生の交錯点を集めたエッセイ集を作ることにも、意義があるのではないでしょうか。

 

 さて、人生を振り返って、「いちいち言わなかった」ものごとは色々ありますよね。ハロプロ曲が焦点を当てる出来事や、心の作用もさまざまです。だからエッセイの内容も、自分の人生において大切だと思う話なら、どんなことでも良い。自分自身にしか語れない、自分本位の話、ただそこにハロプロ曲があること。それだけが寄稿の条件でした。

 だって完全に共感し合うことはできないけれど、それでもまずは知りたいのです。どんな曲とともに、どんな風に生きてきたのか。その人自身のことばで。

 自分ではない、だけどとなりにいるかもしれない誰かの人生に思いを馳せて楽曲を聴ける。楽曲がさらに愛おしくなる。人間を少し好きになれる。そんなエッセイ集になったと思います。

 そのほか、各種企画ページもすべて「ハロプロ曲と共に生きる」ことをテーマに掲げました。

 ハロプロ楽曲の魅力と、私たちが今こそ言葉にしたい人生の話。この本が「愛の種」となって、きっと届くだろうと信じています。

 

 

2020年8月 てぱとら委員会